ABURATSUBO YACHT HARBOR

Salty  Wind  From  Aburatsubo

ヨットモーターボート保険と事故の話

 

 事故を起こしたヨットは江ノ島から機帆走で油壺へ帰る途中でした。江ノ島から亀城そして小網代の灯台を結ぶ線はほぼ帰港の最短距離となりますが、皆さんご存知のとおりこの線の内側、陸岸寄りは多くの網や定置網が点在して往来には大変気を使う海域です、過去にも多くのプレジャーボートが絡網する事故が起こっています。お天気がよい日は海から見る陸岸は大変美しいものですが景色に気をとられていると大変なことになってしまいます。

 この事例も亀城をかわしてもうすぐ油壺というところの初声沖で前方に網を視認してあわてて艇を沖出したのですが、長く沖へ伸びた定置網の先端部、袋網をかわせず絡網してしまいました。そして救助を待たずにエンジンを使って網から脱出を試みました。結果として網がプロペラに絡まり、完全に身動きできない状態となりました。この時点で会社へ救助依頼の連絡が入りました。網に入った時はまだ15時頃でしたが救助依頼をした時点では16時を過ぎていました。当社の救助班は日没までもう時間がない状態で運悪く風も強くなり始めた為ヨットをロープで固定して、乗員を救助艇に乗せていったん帰港することとなりました。この晩南西の風が一晩中吹き、翌日も風波は収まらず定置網からの引き出しを漁協の立会いのもとで試みるも近ずくことができませんでした。風が収まった翌々日ヨットを確認に行くと、もう定置網の周辺に見当たらなくなっていました。 ヨットは沈んでいたのでした。

 この事故の後処理はまず定置網に絡んで沈んだ艇体の引き上げ、移動作業でした。このためにクレーン台船とその曳き舟の手配、引上げ作業のダイバーの手配が必要になります。当然海上保安部への連絡と処理作業の相談も平行して行うことになります。ヨットは何とか網から引き離し、移動することができましたが、曳航途中で吊り上げロープが切断して再度海底に沈没することになりました。沈んだ場所が100メートル以上と大変深かったため、再度の引き上げは断念することとなりました。保安部もしぶしぶ認めてくれましたが普通は引き上げ回収が原則です。                                           次は定置網の所有者である漁協への賠償が必要となります。網の修理と漁獲保障です。 さてこの事故の後始末にかかった費用の総額は幾ら位だったと思われますか? 約5百万の費用がかかりました。艇の引き上げ、移動作業に約340万、網の修理と定置網の漁獲保障約3日分合わせて約160万です。入った網の漁獲がどのくらいあるかでその補償額が変わるわけですが、この事例では残念なことにこの時期かなりの漁獲があったわけです。これらの費用は幸いなことにヨットモーターボート保険の賠償保険と船体保険により全額保険でカバーすることができました。漁協に対する損害賠償は賠償保険で、船体の回収移動費用は船体保険で船体が全損扱いとなった為、そこからカバーすることができたわけです。

 この事例は自力で脱出を試みてペラを網に絡ませてしまった事と、海況が悪くなってしまったこと等々が重なり、結果として最悪の事故となってしまいましたが人命に関わる事故ではなかったことが幸いでした。

(※この事例はだいぶ過去のことですので事故の詳細についてはかなり不明瞭ですし、金銭的な面も現在とではかなり相違があると思われますのでご理解ください。 )         

 この他にも絡網以外で荒天の中の座礁と船体放棄といった事例が何件かありました、いずれの事故も乗員が無事でしたが放棄した船体の回収と処理には大変なお金がかかりました、これで人命に関わるものだと最悪の事故となってしまいます。

 たかが遊びですが海山を問わず自然を相手の遊びは命の危険が常に付きまといます、当然ヨットやボートで他に乗員がいる場合船長は自分以外の人命に対する責任がその肩にかかってくるわけです。そしてほとんどの場合対物、対人の賠償責任が関わってきます。当然皆さんはそんなことは解っているのですが、ついつい忘れてしまいがちです、そして事故は起こります。

そのために保険があるのですが、その前に事故が起きないように、起こさないように、海での事故は人の命とともに大変な金銭の負担もかかってくることを思い起こしてセーリングを楽しんでもらいたいのです。

 皆さんはご自分の活動海域を当然よくご存知と思いますが、もう一度チャートを見直してみませんか、慣れ親しんだ海だからといって仲間と飲みすぎていませんか?車の飲酒運転が昨今厳しく取り締まられていますがそれは人命に関わるからです、ヨットでもそれは同じではないでしょうか。

対策

  1.  定置網が設置されている岸近くの海域には近づかない、付近を航行するときは十分な見張りが必要です。昼間でも視認しにくいのですから夕方から夜間は近づかないことです、GPSに定置網等をポイント入力しておきましょう。
  2. 魚網等に入ってしまったら、セーリング中ならすぐにセールを降ろし、絡網の状態を確認する。エンジンを使っての自力脱出はプロペラに網が絡まりさらに悪い状態に陥ります、絶対に止めましょう。ハーバーへまず連絡をお願いします。
  3. キールが網に引っかかっただけならたいていの場合大きくヒールさせれば脱出できますが、自力での脱出は大変難しいと思います。過去にスピンを上げてオーバーヒールさせて脱出した例がありますが絡網状態と風向き海況などで条件が整わないと難しいと思います。
  4. ハーバーから遠くなければ当社からレスキューボートを派遣します、マストトップからのハリヤードにロープを結びボートで引いてヒールさせ網から引き出します。この際スルハルのバルブは全部閉めてください、ヒールした状態が長いと船内に海水が逆流したことがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
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最終更新日 : 2013/05/24